家事代行物語②
物語ライター りんさんによる、家事代行リアル物語三部作!二作目。
家事代行を依頼する立場のお客さまから見た世界。家事代行を利用するなんて…という葛藤から、依頼して良かったと思えるようになるまで。
めちゃくちゃリアル!!!
皆さんに読んでほしい!!
…*…『だいじょうぶ』という言葉を届けに…*…
どうしようもなく行き詰まったところで、思いがけず知った『家事代行』の存在。
はじめは、いわゆる家政婦さんを想像してそんな贅沢はできないし怖いと思ったけれど、ネットの口コミと、最後はママ友に背中を押される形で依頼してみた。
久しぶりの休日。
でも寝てなんかいられないという気持ちと一緒に、訪問の時間を迎える。
「はじめまして」
想像よりもずっとおだやかな雰囲気のおりとさんは、走り回る園児だけでなく、うまれたばかりの次女にも、ちゃんと目を合わせて挨拶をしてくれた。
それだけで、なんだかほわりと心があたたかくなった。
今日お願いしたいことは事前に伝えていた時には、どこかで、「こんなこともできない自分」がどう思われるのかとドキドキしていて。
「家事って本当にびっくりするくらいたくさんありますよね」
やわらかい声を聞いていると、かすかに残っていた緊張もほぐれていく。
掃除や料理のための特別な道具はいらない。
特別な準備も必要ない。
あらかじめ片付けておくこともしなくていい。
そのままで大丈夫。
その言葉をはじめは信じきれなかった自分がいたけれど、裏表なく本当のことを伝えてくれていたんだと、今ならわかる。
手をつける気にもなれないくらい荒れていた部屋が、どんどんきれいになっていく。
ハウスキーピングのような専門業者ではないと言いつつも、自分にはできない無駄のない動きを見て、ああ、これがプロなんだと、家事とは技術職なんだと、なんだかそんなことまでしみじみ感じてしまった。
部屋がきれいになっていくのにつれて、自分の心も穏やかになっていく気がした。
「すごいねぇ」
私の隣にぴたりとくっついて座る長女が、キラキラと目で彼女の動きを追っている。
「うん、ほんとにすごいねぇ」
こんなにゆっくりしたのはいつぶりだろう。
ためしに記憶をたどってみたけれど、何も浮かんでこなかった。
寝る時間なんてほとんどなくて。
自分の時間なんてもちろんなくて。
好きなことも楽しいことも思い通りに動くことも、何もかもがお預けで、少しでも寝たいと思ってもなかなかそうもいかなくて。
ひとり目の時以上に大変だと感じるのは、たぶん、上の子が落ち着かないから。
抱っこをせがみ、まとわりついて、大声で泣いて、怒って、わがままを言って、「お姉ちゃんなんだからちゃんとして」という言葉を何度口にしたかわからない。
仕事と育児と家事で、驚くほど時間がめちゃくちゃになっていった。
2人目は『育児にも慣れてきて育てるのが楽になる』だなんて誰が言ったんだろう。
たとえば、ゴミを出す前にはゴミを家中から集める。
食事を出すためには、献立を考えて、冷蔵庫の確認と買い出しもして、もちろん作る時間の確保も必要。
お風呂を洗わなければお湯を張れないし、洗濯は干して乾かして畳んでしまわないと片付かない。
ここに掃除が入り、子供の送り迎えが入り、熱が出たら病院にも行かなくちゃいけない。
目の前のことを片付けて、しなければならないと思うことに追われ続けて、でも何もかもが中途半端で手づかずで。
イライラが止まらなくて、そんな自分が嫌で、どんどんと気持ちが荒れていくのを、落ち込んでいくのを、ずっとずっと感じていた。
だから。
「ママ、よかったねぇ、ニコニコだねぇ」
長女がうれししそうに私に笑いかける顔を見たら、それだけでなぜか胸がいっぱいになってしまった。
部屋の片づけの後には水回りの掃除、さらにお料理の作り置きにまで家事代行は進んでいく。
依頼をするのなら『3時間コースがおすすめ』だと聞いていたけれど、自分が考えていた以上にその3時間は有効に使われていくのを眺めながら、子供たちと休日らしい時間を過ごすことができた。
しかも、
「時には全然知らない他人の方が、いろいろ話せることもあったりしますよね」
「お子さんがふたりいらっしゃる場合には、上の子を優先させるといいんですよ」
「でもそれ以上に、まずはママが一番優先というのが大事なんです」
「お料理だって、全部手作りにしなくても、コンビニやお惣菜とか使っちゃっていいんです」
掃除や料理の合間に、好奇心で後を追いかけては「これは? なあに?」と質問攻めにする長女の相手までこなしてくれながら、私の困りごとや悩み事、これまで誰にも言えずにいたことにも答えてくれる。
経験談も交えながらの言葉はどれも、私が本当に欲しかった言葉たちだ。
きれいにしておきたいし、片付けたいし、おいしいものを食べさせてあげたいのに、ちゃんとしたい、ちゃんとやりたいのに。
なのに、できない。
助けてという一言が出てこなくて、ひとりでがんばるしかないと思い込んでいた。
目を離したら何が起こるかわからない、守らないといけない命の重さが2人分、その責任でいっぱいいっぱいだったのだと今ならわかる。
「大丈夫ですよ」
おりとさんの言葉が優しく響く。
簡単にマイナスへと傾いていく心をやわらかく受け止めて支えてくれる。
「ありがとう、ございます……」
思わず泣いてしまった私にそっと寄り添ってくれたのがとても嬉しくて、さらに涙が止まらなくなる。
「こんなふうに誰かと話をするって楽しいですね」
涙と一緒に感謝の言葉がこぼれていけば、
「当たり前に頼ってくださいね」
やわらかくやさしい言葉が返ってきて、心の中の重たいものがとてもとても軽くなった。
了
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札幌のおいしいグルメスイーツ巡り情報&時々メンタルな物語ライター的発信@りんブログ