家事代行物語①

家事代行のリアル物語を作家さんに依頼し、執筆してもらいました。これから家事代行を利用しようと思っている全ての人に読んでもらいたいです!

三部作の、1作目。

…*…あたりまえに頼り得られる幸せを…*…

 家事ができないなんて、恥ずかしい。
 こんな荒れた部屋を他人に見せるなんてできない。
 誰でも当たり前にできることが、自分にはできないなんて言えない。

 そんな想いに駆られる方にこそ、伝えたい。
 それは、『だからこそ頼ってほしい』ということ。
 できるはずのことができていない苦しさよりも、身近な他人を頼り任せて得られる幸せを。

 *

「え、あんなにひどかったのに」

 赤ちゃんを抱っこし、保育園の子の手を繋いで、肩には重い仕事鞄を提げて。
 仕事帰りにふたりのお子さんを迎えにいき、そうして帰ってきたお客様は、リビングの入り口で目を丸くする。
「すごい。整理整頓って感じしますね。うちってこんなに広かったかしら」
ちゃんと床を見たのは久しぶりかも、と驚きながらも弾む声に、こちらもつられて笑顔になる。
 そわそわしながら仕事用の荷物をソファへ置き、今度は母娘そろって、キッチンへ。
「帰ったらもうご飯ができてるって、やっぱり最高ですね」
 キッチンテーブルに並んだ作り置き料理の7品を前に、夢みたいと、目を輝かせてさらに歓声を上げてくれた。
「ママ、ママ、すごい?」
「うん、もうすごいよ。ぜんぶおいしそうで、食べるの楽しみだねぇ」
 お子さんが一生懸命に背伸びをして並んだ料理をのぞきこもうとする姿も可愛らしく、つい口元がほころぶ。
 夕食前にほんの少しだけと味見をし、さらにそっくりの笑顔で、「おいしい」の二重奏をいただけた。
 はじめてとなる前回の依頼では、『3時間』すべてを使って買い出しと作り置きに専念したけれど、今回は、品数を減らして、その分を掃除洗濯に割り振られている。
「このおいしい料理をきれいな部屋で、子供たちと一緒に食べられるなんてすごい贅沢ですね」
 ついという感じでこぼれたお客さまの言葉。
「おりとさんのお料理の動画とかレシピ本とか見てたから、とにかくいっぱい作ってもらおうって思って」
 料理の手間がなくなる分を別の家事に割り振ると頑張っていたお客さまは、今回はとにかく手が回らないということで、掃除と整理整頓も打ち合わせ段階から依頼してくれていた。
「家事って本当にいろいろありますから。ぜひいろいろ頼ってください」
「ほんとに助かりました。2回目以降なら、留守の間に頼めるのも心強かったですよ。本当は今日も、“来てくれる前にちょっとくらいは”って思ったのに、時間が全然ないまま家を空けなくちゃいけなくて……」
 片づけがまるでできてないことを切り出されたときの、あの、ひどく申し訳なさそうな、ためらいと恥じらいと気おくれが混ざり合った複雑な表情が思い出される。
 それはこれまでうかがってきた他のお客さまと同じ、どこかできない自分を責めるような色合いで。
「家事代行をご依頼くださる時に、“少しでもキレイにしてから”と考えらえる方も多いんですけれど……本当にそのままで大丈夫なんですよ」
「最初に来てくれた時もそう言ってくださったじゃないですか。でも、つい、どう思われるんだろうって考えちゃうんですよね。なんていうか、できてないのが恥ずかしくて……」
 ほんの少し苦笑を浮かべ、それから、お客さまは、ほろりと息をつく。

 『家事代行』は『3時間』をおすすめしているが、その内訳というか使い方はお客様それぞれだ。
 3時間すべてを使って料理20品前後を作ることもあれば、1時間ずつ掃除・洗濯・料理に振り分けて依頼されることもある。
 お客様にとって、いま必要なものを。
 お客様にとって、心悩ませているものへの解決を。

 食べなくては、ひとは生きていけない。
 だからたぶん、家事全般の中でも、食事のやりくりについて最優先で頭を悩ませる。
 料理が好きなら、きっと楽しい。
 けれど、それが苦手なら、献立を考えるだけで辛くなる。
 だから、「家事の手助けになれば」という想いで、レシピ本の電子書籍を出した。
 コンセプトは『帰宅後15分でできる』。
 帰ってすぐ休みたい、でももう一踏ん張り15分で美味しいものを作ることができたら、それを食べることで明日の『頑張ろう』につながるのなら。
 『家』はレストランではないのだから、似たものが出ても構わないし、毎日手の込んだものを作ることもない。
 あらかじめ献立が決まっていて、しかも美味しくて、さらに片付けが楽であれば、ご飯への負担は減らせる。
 電子書籍なら、帰りにスマホから見ることもでき、作る時もスマホをそばに置いてできる。
 そんな想いが強く出た結果、作り置き料理の依頼がぐんと増えた。
 けれど、家事は料理だけでは終わらない。
 ごはん支度の代償のごとく後回しにした掃除や洗濯も、本当は、『このままにはしておきたくない』という思いがあることを自分は知っている。
 おだやかな時間を、落ち着いた空間で過ごせる時間を、心地よい場所で子供と向き合って食べられる時間を、大切にしたい気持ちを知っている。
「おりとさんに頼んで本当によかった」
 赤ちゃんを抱き、小さな女の子に抱きつきかれながら浮かべる笑顔のなかにわずかな涙が見えて、こちらまで胸に込み上げるものがある。
「そういっていただけて、すごくうれしいです。ありがとうございます」
 願わくは、気軽に、あたりまえに、家事と育児と仕事に追われ続ける苦しさを幸せな時間に変える手助けをさせてもらいたいと願い、笑顔を返した。

Copyright RIN
活動名:りん

ブログ:
札幌のおいしいグルメスイーツ巡り情報&時々メンタルな物語ライター的発信https://ameblo.jp/roseteddybear/

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